日が長くなり、あちらこちらで可憐な花が咲き、ロンドンもようやく春の訪れを感じる季節となりましたね。
さて、KirariのHPをご覧くださっている方の多くは、ロンドンに住んでいる、または住んでいた、これから住む予定の方だと思います。かくいう筆者自身も、ロンドン在住4年目のいわゆる駐在妻です。
駐在生活が始まったばかりの頃は、「ロンドンに来たからには〇〇に行きたい!これだけは押さえておかなくては!」などとアドレナリンが出っぱなしで、目にするものすべて、出会うものすべてが新しく刺激的な毎日でした。
しかし、生活が落ち着いてくると今度は、そうした刺激にあふれた生活にだんだんと疲れを感じるようになってしまい、「もう少し地に足の着いた生活、地域に根差した生活をしたい」などと感じるようになりました。
同時に、「でもどうやって地域と関わっていけばいいんだろう?どこに行けば地域の人と知り合いになれるんだろう?」とも感じていました。
そんなときに出合ったのが、西ロンドンのアクトンにある地域交流型映画館“ActOne cinema(アクトワンシネマ)”でした。
映画館なんだから映画を観るだけじゃないの?
どうして映画館で地域との関わりが生まれるの?
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
アクトワンシネマは映画だけじゃないんです。
そこで今回は、そんな地域交流型映画館“ActOne cinema(アクトワンシネマ)”の魅力をお伝えしたいと思います。
ActOne cinema(アクトワンシネマ)ってどんなところ?
アクトワンシネマは映画だけじゃない!
とは言っても、もちろんメインは映画館ですので、まずは映画館の概要や上映内容についてご紹介します。
アクセス
最寄り駅はOvergroundのアクトンセントラル駅。駅からは南西方向に徒歩約8分です。
アクトンハイストリートの真ん中に、赤レンガに三角屋根の古い建物があり、その1階にアクトワンシネマがあります。
設備
各60席を備えた2つのスクリーンがあります。
ダイバーシティトイレ、車イス用トイレ、おむつ替えシートを備えています。
カフェ&バー
映画館には併設のカフェ&バー(兼チケット売り場)があります。
淹れたてのコーヒー、多様な品揃えのアルコールとソフトドリンク、クッキーやペイストリー、そして映画鑑賞には欠かせないポップコーン等を販売しています。
おすすめはHACKNEY GELATOのアイスクリーム!
映画鑑賞の前後はもちろん、それ以外の時間も、いつでも誰でもくつろげる空間として利用できます。
カフェ&バーへは、ワンちゃん連れも歓迎です。なんといってもアクト”ワン”シネマですから!
(※スクリーンへ連れて入ることはできません)
どんな上映があるの?
上映内容
主に最新映画を上映していますが、映画だけでなくNational TheatreやThe Royal Operaで上演される舞台のライブ上映も行っています。
劇場まで足を運ぶことができなくても、大きなスクリーンで、舞台のライブ映像を楽しむことができます。
映画上映に合わせて、映画監督やスタッフを招待してのQ&Aセッションが開かれることもあります。
また、旧作映画を単発上映することもあり、これまでに日本映画も多数上映してきました。
黒澤明監督の「乱」「七人の侍」、小津安二郎監督の「東京物語」、是枝裕和監督の「そして父になる」、広島原爆を描いた映画「ひろしま」等の上映実績があります。
Carers & Babies Screenings
毎週火曜午前の上映は、1歳未満の赤ちゃん連れの方のみが鑑賞できる時間となっています。
上映中に赤ちゃんが泣いたり声を出したりしても、観客はみんな同じ赤ちゃん連れの方ですので、いやな顔をする人は誰もいません(ただし、“女性限定”ではありませんので、男性の保護者の方がいることはあります)。
通常上映時よりも照明は明るく、音量は小さく設定され、英語字幕も表示されています。
Hard of Hearing(HOH)
毎週水曜午後に上映される作品(すべての作品ではありません)は、英語字幕付き上映となっています。耳の不自由な方にも映画を楽しんでいただけます。
Relaxed Screenings
毎週木曜午後には、自閉症や神経過敏などの理由で、周囲の環境に敏感な方向けの上映時間が設定されています。
お気に入りの枕や毛布を持参して、寝転びながら鑑賞する、といったことも可能な時間ですので、環境の変化が苦手な方でも、自宅にいるようにくつろぎながら映画を楽しんでいただけます。
Classic Matinee
毎月一回(曜日不定)、長く愛され続ける名作クラシック映画を上映しています。
このように、アクトワンシネマでは、さまざまな背景を持つ方々が映画を楽しめる機会を提供しています。
料金は曜日、時間帯、上映作品によって異なりますので、公式HPよりご確認ください。
映画鑑賞以外の楽しみ方は?地域と繋がるってどういうこと?
冒頭で述べたように、アクトワンシネマは、映画だけではありません。
スクリーンやカフェスペースを利用した、地域交流型、参加型の各種イベントが実施されており、さまざまな楽しみ方ができます。
また、イベントの多くは入場無料ですので、誰でも気軽に参加できるのがよいところ。
では、それぞれのイベントについてご紹介します。
OPEN MIC NIGHT
毎月最終木曜日の夜に開催されるオープンマイクナイトは、誰もが自由にマイクの前に立ってパフォーマンスを披露することができる、参加型イベントです。
歌や楽器演奏だけでなく、詩の朗読、コメディパフォーマンス等、演目も自由です。一芸を披露してみたいという方は、ぜひ参加してみられてはいかがでしょうか。
観客として参加する、というのも、もちろん楽しみ方のひとつです。
JAZZ NIGHT
毎月1回土曜日(不定週)に開催される、地元を拠点に活動するジャズバンド「TRENT PIETERSE TRIO」による演奏会です。
ワインやビールを片手にジャズに酔いしれる土曜日の夜なんて贅沢ですね。
BOARD GAME NIGHT
毎月第一水曜日の夜に開催されるボードゲームナイト。
その日その場に集まった人たちと一緒に、ボードゲームを楽しむことができる会です。
友人と一緒に参加するのもいいですし、1人で参加して新しいゲーム仲間を見つけるのもいいですね。
ゲームのルールがわからなくても大丈夫、知っている人が教えてくれます。
ボードゲームはご自分のものを持ち込むことも可能です。
クワイア活動
カフェスペースを利用して、2つのクワイアグループが活動しています(※クワイアはどちらも参加費が必要です)。
・WEST LONDON QUEER CHOIR
(毎週月曜19:30-21:00)
自身がミュージシャンとして活動しているKittyという女性が、今年の2月から新たにスタートしたクワイアです。
活動を開始したばかりということもあり、現在、メンバー募集中です。
・OFFBEAT CHOIR
(毎週火曜20:00-21:30)
ジャズ合唱指導で博士号を持つMartaという女性が指揮するアカペラクワイア。
映画館開館当初(2021年)から活動しており、ポップソング、聖歌など、ジャンルにとらわれずさまざまな歌を歌います。
クリスマスには、タワー・オブ・ロンドンや教会でのコンサートに出演します。
メンバーは女性中心ですが、男性の参加も歓迎しています。
スクリーン&カフェの貸切利用
会社のイベント、お子様のお誕生日会、プライベートフィルム上映会、ワークショップの開催など、多様な用途でスクリーンやカフェエリアを貸し切って利用することも可能です。
スタッフによる技術サポート、ケータリング手配なども対応可能ですので、何かイベントを企画される際にはぜひご利用ください。
このように、アクトワンシネマには、映画鑑賞はもちろん、その他にもさまざまな楽しみ方があることをおわかりいただけたと思います。
筆者は、こうした各種イベントに参加することを通して、多くの人と出会い、地域との関わりを広げてきました。
地域の中に“自分の居場所があると感じられる場所”ができたことで、ロンドン生活がより豊かになったと感じています
地域の人たちのための場所 ~図書館から映画館へ、建物の歴史~
アクトワンシネマが単なる映画館としてだけではなく、このように地域交流の場としての役割を果たしているのには、建物の歴史と深い関わりがあります。
というのも、赤レンガの外観が美しいその建物は、もともとはアクトンでの初めての公立図書館として、「すべての人に、無償で教育を受けられる公正な機会、場所を提供する」という理念のもとに、約120年前に建てられたものでした。
図書館は、地域の人たちの知識、希望、繁栄、交流の場所として100年以上も親しまれてきましたが、時代とともに段々と利用者が減り、2014年に閉館。その後5年間、扉は閉ざされたままになってしまいました。
そして、いつしか土地開発業者への売却が検討されはじめたのです。
しかし、「歴史あるこの建物を、アクトンの人たちの交流の場、憩いの場として、もう一度復活させよう」と地域の人たちが立ち上がりました。
そして、「図書館を映画館として生まれ変わらせる」という計画が立てられました。計画実行にあたっては、地域行政、映画関係者、地元企業、地域住民による寄付、またクラウドファンディングでも出資を募り、広くその資金を集めました。
また、多数のボランティアの参加により、地域住民自らの手で、建物の改修作業も進められていきました。
そして2021年秋、ついに、閉ざされていた図書館は、映画館として再びその扉を開きました。
「地域の人たちの集まる場所を、もう一度」という熱い想いが形となり、その想いの結晶こそが、アクトワンシネマなのです。
公立図書館のように“無償で”とはいきませんが、「すべての人に公正な機会と場所を提供する」という基本理念は、映画館となった今でも変わっていません。
まとめ
映画鑑賞はもちろん、その他にもいろいろな楽しみ方がある地域交流型映画館ActOne cinema(アクトワンシネマ)。
アクトンといえば、ロンドンの中でも特に日本人が多く住むエリアではありますが、これまでシネマのことをご存じなかった方もおられたかもしれません。
この記事を読んでご興味を持たれた方は、ぜひ一度、足を運んでみてください。
地域の人たちに100年以上も親しまれ、愛され続ける建物の扉を開き、ローカルと繋がる場所、自分の居場所を探してみませんか。